第3章:市民の安全を守れ編
警察学校を卒業し、俺たちは晴れて警察官になった。だが、喜びもつかの間だった。
初日、署で俺のパートナーとなる先輩を紹介された。一見すると、爽やかな笑顔の、いかにも頼りになりそうな人だ。だが、俺は息をのんだ。その先輩は、学生時代に俺の幼馴染の女の子を取った、アメフト部のエースに顔が瓜二つで、しかも水色のヘアバンドをしていたのだ。
トラウマが蘇った。彼の顔を見るたびに、俺の心臓は締め付けられ、胃がひっくり返りそうになる。
「これからよろしくな、ピート。タッチダウンの前に、まずはパトロールだ。」
先輩が歯を光らせながらそう言って俺の肩を叩いただけで、俺は泣きそうな顔になった。言葉を交わすたびに頭の中では、学生時代のエースの顔が7つに分裂し真ん中の一つは動かずにリボルバーの様に6個のエースの顔がグルグル回って、嘲笑がコダマの様に響く。
先輩が何か話しかけるたびに、俺は「うっ」と喉から声を出してしまい、最終的には堪えきれずにパトカーの窓から顔を出して嘔吐してしまった。
「おい、大丈夫か?ピート!走り込みが足りないんじゃないのか?」
先輩は心配してくれたが、俺はまともに答えられなかった。
一方で、ペーターとポパイは、俺とはまったく違う日々を過ごしていた。なぜか二人は同期二人で組んでいて、後部座席にはいつもポパイの彼女が乗っていた。パトロールというよりも、まるでドライブを楽しんでいるようだ。ポパイは彼女と笑い合い、
「見てピート!私、ポパイ巡査に逮捕されちゃったわ!最高よ!」
「ヘイ、ブラザー、こんなに楽しい仕事は他にないね!」と陽気に叫んでいる。
ペーターは無表情のまま、運転席に座って運転しているが、ぶつかりそうになるのを他の車がギリギリ避けている。その光景を見るたびに、俺は心の中で毒づいた。
何が、市民の安全を守れ、だよ。
そんなある日、地元のダウンタウンをパトロールしていると、見覚えのある男が目に飛び込んできた。消防署の前に堂々と車を停めている。それは、アメフト部のエースだった。
「先輩、あれ、ウップ、駐車違反です。」
俺は震える声で言った。先輩は「よし、見てこい。トライだ。」と言って、俺を車から降ろした。俺が声をかけると、エースは俺の顔を見て、嘲笑した。
「おいおい、ピートじゃねぇか。お前、ついに警察官になったのか? 似合わねぇなぁ、ガキの頃から何も変わってねぇな、お前は。」
エースの言葉は、俺の過去を鮮明に蘇らせた。まただ。胃が締め付けられ、泣きそうな顔になる。吐き気がこみ上げてきて、俺はその場で嘔吐してしまった。
「ピート!おい、大丈夫か!トライダウン失敗か!」
先輩が駆け寄って、俺の背中をさすってくれた。その時、俺はエースと先輩が並んでいるのを見た。
二人は瓜二つだと思っていたが、並んでみると微妙に違うことに気づいた。エースは笑い方が少し下品で、目が鋭く、人を馬鹿にしたような雰囲気があった。一方、先輩は、俺がトラウマでまともに話せない間も、ずっと心配そうな目で俺を見ていた。笑うことはあまりないが、その瞳は優しかった。
そして何よりも、ピンクの袖なしのTシャツを先輩は着ていないじゃないか!二人は似ているようで、まったく違う人間だったのだ。
「ピート、そいつを取り押さえろ!ファーストダウンだ!」
先輩のその言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏からエースの嘲笑が消え、先輩の優しい瞳だけがリボルバーの様にグルグル回った。トラウマなんて、もう関係ない。俺は、警察官だ。
俺は先輩の命令に、迷わず従った。アメフト部で培った俊敏な動きで、エースを見事で鮮やかに地面に押さえつけた。地面に顔を押し付けられたエースは、「ち、ちくしょう! ピートのくせに!」と叫んだ。
その叫びを聞きながら、俺は胸のつかえが取れたような気がした。それからだ。俺は先輩の命令や話を真摯に受け止められるようになった。先輩の言葉には、満面の爽やかな笑顔で答える。
先輩は俺の急な真逆な対応に心底気味悪がっていたが、勤務態度が見違えるほど良くなったので、渋々納得してくれた。
それから俺は、見違えるように活躍した。俺は学生時代から培った足の速さと負けず嫌いのガッツで、強盗や交通違反者の逮捕数が、見る見るうちに署内でトップになった。
数か月後に俺は表彰式で誇らしげに胸を張り、ペーターとポパイの羨望の眼差しの中、表彰状を受け取った。俺は表彰状を両手で揚げてこう言った。「警察官は最高だ!」