第4章:3人で解決編
署内の逮捕数トップになり、すっかり調子に乗っていた俺は、その日、とんでもない失敗をやらかした。
パトカーのトランクに積んだ荷物を整理しているときだった。先輩が荷物を取り出そうと身をかがめたその瞬間、俺は勢いよくトランクのドアを閉めた。もちろん、よそ見をしながら。
鈍い音が響き、先輩は「ハデゥース!」と言ってその場に崩れ落ちた。頭を強く打った先輩は、頭から血を流して気を失い、結局、全治二週間の怪我で入院することになった。
「俺は、先輩に迷惑をかけてしまった…。」
自分を責めながら落ち込んでいると、ペーターとポパイが声をかけてきた。
「ヘイブラザー、落ち込むなって!俺たちに任せろ!」
ポパイは明後日の方を見ながらそう言って俺を元気づけてくれ、ペーターは何故か俺に赤いキャンディを手渡して目を見て頷いてくれた。
その日の夜、俺たち三人は、署の裏手のカフェで一人の男と会うことになっていた。彼は麻薬組織に潜入している潜入捜査員のカーターだ。本当は先輩を入れて4人で会うはずだったのだが、先輩は寄り目が治らず今も病室のベッドの上だ。
突然店の照明が落ち、ファンキーな音楽が鳴り響く。カーターは俺たちの前に浮浪者の格好で現れると、ゲラゲラ笑い、ひどく震えていた。目の下にはクマがあり、顔色は真っ青だ。どう見ても麻薬中毒者だった。
「ヘイ!調子はどうだいブラザー!」
カーターはそう言って、俺たちにモンキーダンスを踊りながら近づいてきた。俺はドン引きし、ペーターは変わらずコーヒーを飲んでいる。そしてなぜかいつも陽気なポパイまでもが真顔でドン引きしていた。カーターはポパイの普段と変わらない感じなのに、なぜなのだろう。
「明日、明日だ…!そう明日の夜8時、埠頭の古い工場で…取引が行われる…!」
男はヘラヘラ笑いながら机の上でブレイクダンスを踊り、俺たちが頼んだドーナツを辺りに吹き飛ばした。あまりの奇行ぶりに俺たち三人は無表情で席に座ったままだった。
カーターはそう言い残すと、カフェの女性店員にちょっかいをかけながらフラフラと歩いて消えていった。カーターが店から出ると、店の照明が元に戻った。
俺は恐怖で足が震えた。麻薬組織の取引現場に、先輩抜きでこの三人で乗り込むなんて、考えただけでも恐ろしい。
「おい、どうする…」
俺が二人にそう言うと、ポパイはハッと我に返り、いつものようにニコニコして言った。
「ヘイブラザー、最高だね!」
ペーターは何も言わないでコーヒーをがぶ飲みしている。
俺はしり込みしながら、先輩がいないことにひどく怯えていた。
ペーターのおかわりのコーヒーを持ってきたカフェのツインテールの女性店員が俺たちの警察官の制服を見て、目を輝かせた。
「わあ、警察官だ!かっこいい!」
その一言で、俺のやる気は一気に沸点に達した。俺は、かっこいい警察官なんだ! 俺は、市民のヒーローなんだ!
俺はつかさずカフェの店員の手を握り、熱い告白をした。カフェの店員は引きつり笑いをして「それとこれとは別。」とその場で俺は振られた。
翌日の昼、取引現場に向かう前に、実家に寄ることにした。母親に会うと、彼女は俺の警察官の制服を見て、嬉しそうに言った。
「ピート、お前は私の誇りだ。立派になったね。」
俺は嬉しくて、つい号泣してハグをした。生まれて初めて褒められたのだ。だが、その直後、母親は俺の耳元でとんでもないことを言い出した。
「ところで、私の昨日の駐車違反の切符、どうにかならないかしら?」
俺は怒って家を飛び出した。
取引現場の工場に着くと、すでにペーターとポパイは来ていた。二人は物陰に隠れて、中の様子をうかがっている。「よう、早かったな。ペーター、ポパイ。」ペーターは口元に人差し指を当て、静かにするように俺を睨んだ。慌てて俺も二人の隣に身を潜めた。
工場の中では、中国系マフィアとイタリア系マフィアの二つの組織が取引を終えたところだった。麻薬の入ったケースと、大金の入ったカバンが、床に置かれている。
「よし、今だ!」
俺は興奮して飛び出したが、慌てていたため、飛び出した後に銃を落としてその場で立ちすくんでしまった。俺はキョトンとした顔で悪人たちと目を合わせた。
その後に、悪人たちはゆっくりとお互い顔を見合わせたが、すぐに慌てて、金と麻薬をどちらも取ろうと争い始めた。
その時、パン!と乾いた音が響いた。ポパイが拳銃を撃ったのだ。そして麻薬が入ったケースを見事に悪人の手からはじいた。だが、その衝撃で宙を飛んだケースはたまたま近くにあった、火のついたドラム缶の中に落ち、麻薬の粉末が舞い、大量の煙となって工場内に充満した。
最初は皆、むせていたが、次第にその煙を吸った全員が、半笑いになり、狂乱してしまった。
ポパイはひたすら笑いながら、拳銃を乱射している。俺は「やめろ、ポパイ!」と叫んだ。しかし、ポパイの撃った弾が棒立ちのペーターのお尻に当たった。ズボンが血まみれになったペーターは、無言のまま床で悶えて足をバタバタさせてグルグル回っている。
外からサイレンの音が近づいてくる。警察の応援だ。だが、狂乱したポパイは、彼らに向かって銃を発砲した。
「ヘイブラザー、最高だね!メリーゴーランドだ!」
警察官たちも反撃し、壮絶な銃撃戦が始まった。ポパイの射撃は正確で次々に警察官が倒れていく。そして煙の中で俺は、ペーターが床でグルグル回りながら今度は警察に反対側のお尻を撃たれるのを見た。「オゥ!」ペーターはオットセイみたいな声を出し、その一部始終を見た俺は無表情のままだった。
俺は、最初からハンカチを口に当てて、必死に煙を吸わないように逃げまどっていた。視界がグルグルと回る中、俺は陽気な歌声が響いている方へ行くと、工場の壁際に数人の人だかりが出来ていた。
そこでは両組織の悪人たちが、仲良く肩を組み、ストリップをしながら踊っていたのだ。俺は、そいつらの汚い裸を見ないようにしながら全員を縄で縛り、逮捕した。
「もう、銃撃戦はやめろ!悪人は全てこのピーナッツが捕まえた!」
ニコニコしているポパイは銃の弾を全て打ち尽くし、カチカチと音を鳴らしていた。ペーターは血まみれで床に横たわり、うつ伏せでもう動かない。
後日、俺たち三人は表彰されることになった。俺はひたすら緊張した。ポパイはいつもと変わらず、ニコニコしている。だが、ポパイに撃たれてから警察に撃たれて血まみれになり、車いす生活になったペーターは、表彰台に登ることができず、車いすから転び落ちていた。
そして俺たちを祝福してくれる警察官たちは、皆、怪我人だらけだった。腕を吊っている人が多く、拍手ができない人もいるので、拍手はマダラに聞こえた。
そしてその時ルーシーがうるんだ瞳で俺たちを見ていた事を、俺は知らなかった。
そして、いつものように、俺たち三人は焚火を囲んでマシュマロを焼いていた。焚火の周りには、使い古された切り株が二つと、車いすが一つ。ペーターは車いすに座っている。
マシュマロを焼こうと身を乗り出すたびに、車いすから転ぶペーター。
俺は呆れたように無表情で見る。ポパイはニコニコしているが、何も言わない。何事もなかったかのように、ペーターはまた車いすに座り直す。
俺は静かに言った。
「…俺たちは、この片田舎のヒーローになったな。」
俺の言葉を聞き、ポパイはいつものように満面の笑みを浮かべた。
「ヘイブラザー、最高だね!」
ペーターはまた、車いすから転んだ。だが、すぐに起き上がって座り直す。
「なぁ、二人とも。俺たちで、大都会に行って、世界の治安を守ろうぜ。」
ペーターはまた、車いすから転んだ。だが、何も言わない。
その時、木の陰からルーシーがこちらを見て、「素敵。…ペーター。」と誰にも聞こえない声で呟いた。
俺とポパイは、ペーターが何も言わないことを確認すると顔を見合わせた。そして、俺たちは両側からペーターの肩を組み、体を起こして彼を立ち上がらせた。
立ち上がらせた時に、ペーターは初めて微笑んだ。だがそれは、ほんのつかの間だった。
「俺ら、ピーナッツ!」
そう叫んで、俺とポパイは両手を挙げた。その拍子に、肩を離されたペーターは、また地面に転び落ち、ルーシーが木の陰からうっとりとペーターを見つめていた。
完