第2章

私と武志は、隣同士の家に住む幼馴染だ。

幼稚園の頃から、登下校も放課後の遊びも、いつも一緒。彼は少し不器用だけど、いつも優しくて私のことを一番に考えてくれる人だ。

小学校では私をいじめっ子から守ってくれて登下校は手を繋いで、放課後もいつも一緒だった。

中学校ではいつも一緒の委員会をやって、野球部だった武志はかっこ良くて本気で応援した。私と武志の仲は周知の仲だったので、同級生からの異性からの告白はあまりされなかったが、武志と二人だけの時に、異性から告白されたらお互い報告しあっていた。私は武志が後輩からの告白を断ったことを、口には出さなかったが、私は内心で安心していた。

ただ、私と武志が実際に付き合うとか、彼女彼氏の関係は考えなかった。このままの幼馴染の関係が壊れてしまうのが、とても怖かったのだ。

そして一緒の地元の高校に進学した。友達からは、登下校まで一緒でまるで夫婦だ、とからかわれたりして、私は恥ずかしかったが武志は全然気にせず、お互いの家の前まで常に一緒だった。武志は成績があまり良くなかったけど、一緒の大学に行くことを目標に高校三先生の夏から武志は勉強を本気で頑張り、晴れて二人とも合格した。合格発表の時に二人の名前を見たその時、私は号泣しながら、武志と一緒なのは運命だと思ったし、お互いが両想いだと確信していた。

大学に入ってもそれは続くかと思ったが、大学1年の4月、武志の両親が交通事故で他界してしまった。それから落ち込んでしまった武志に寄り添い、武志の家の家事もやった。でも私たちの距離は、幼馴染の距離と変わらずにいたのだ。それはずっと家族だったし、これからも変わらないと思っていたからだ。

ある日、テレビで車のCMを見ていた時に、ドライブがしたいな、とポツンと言った私を見て、次の日にその新車をポンと買ってきたのは驚いた。武志は満足げに、「どこに行く?北?南?」、と散歩に行きたい犬の様だったので、私は呆れたこともあった。

自慢じゃないが私は異性から合コンに沢山、誘われた。でもすべて断り、武志のなるべく傍にいた。武志の亡くなった両親が私は好きだったし、時々亡くなった両親を思い出す武志の顔を見ると、励ましてあげたくなるのだ。

 私と武志の関係が進んだのは、就職のときだった。彼は公務員の道を選び、私は考古学の勉強をしていたので都内の博物館に勤務することが決まったときだった。初めての遠距離になり、私が引っ越しする前日に、武志は急に私に告白した。

「私と離れるのが嫌で、告白してきたの?意味わかんないよ。」といって爆笑した。もちろんオッケーした。でも結局、私達の関係は大きく変わらなかった。週末は必ず一緒に居たし、連絡も毎日していた。私達は彼女と彼氏の関係になったとしても、これまでと同じ、幸せな毎日だった。

だから、それから気がつけば8年もの長い間、大きな喧嘩はせず私たちは恋人同士でいた。でも、去年別れを告げたのは私だった。理由は、ありきたりなものだと思う。彼との未来が見えすぎて、幸せが見えなくなったから。公務員として働く彼に対して、収入面では安定していて時間に余裕もあり、何の不満もなかった。それなのに、私は何かが物足りない感じがしてしまった。いつまでも変わらない日常、どこにも向かっていないような感覚。私は、もっと刺激が欲しかったのかもしれない。彼を嫌いになったわけじゃない。ただ、私の心が、どこか遠い場所を求めていた。

でも、別れてからというもの、私の日常は武志がいた時よりも色褪せてしまった。新しい出会いを求めても、誰と会っても彼のことを思い出してしまう。友達から強引に誘われた合コンにも一度行ったが、あまりの相手の男たちの薄っぺらいつまらなさに途中で帰ってしまった。

武志の少し不器用だけど、いつも優しい笑顔。休日に二人で近所の公園を散歩したり、家で転がって漫画を読んだり、特別なことは何もなかったけど、あの日々は確かに幸せだったと思い返す日々だった。

別れを告げたのは私なのに、後悔ばかりが募った。1か月前に仕事をやめた私は実家に帰ってきた。帰ってきたことは彼には告げられずに、彼がどうしているのか気になって、何度も家の前を通った。そしてカーテンが閉ざされたままの彼の家を見るたびに、胸が締め付けられていた。

そんなある日、彼の家の庭に大きなクレーン車が入っていくのを見た。何かの工事をしているらしい。大きな穴が掘られ、トレーラーで何やら巨大なコンクリートの塊が運び込まれていく。ただ事ではない雰囲気だ。近所の野次馬も集まって来た。

私は一階におりてサンダルを履き、アイスを口に加えながら、家を出た。そしたらマンホールの蓋みたいな出入口から、ひょっこり出てきた武志に声をかけた。

「武志、何してるの?」

久しぶりに見る彼は、以前よりも少し痩せて、顔色も悪かった。そして私を見て、驚いた後に幸せそうな笑顔になり、武志はハッと気づいて目線を逸らした。その仕草が、私の心をさらに痛めた。別れを告げたのは私で、彼がこんな態度をとる原因は当然私にあるのだ。

「ああ、久美ちゃん。久しぶり。これ?核シェルターだよ。」

武志の言葉に、私は耳を疑った。核シェルター?どうして?信じられなくて、もう一度聞き返した。

「はぁ?核シェルター?」

彼はバツが悪そうに、下を向いたままで私に話した。

「戦争や自然災害のためだよ。いざという時に、生き残るための備えだ。必要なんだ。」

彼の言葉は、まるでどこかのSF映画のセリフみたいに聞こえた。私は、わけが分からなくなってしまった。

「でも武志は生き残って、どうするの?もしも本当に世界が滅びたら、一人で生きてても虚しいだけだよ。」

そう言う私に、彼は少し寂しそうな目で言った。

「じゃあ、どうしたら良いんだ。」

私はその言葉に、昔から変わらない武志を垣間見た。

「そしてこのシェルター、すごく高かったんだ。」

そう言って、彼は怒られた子供のように棒立ちのまま、自分の服の端をいじっている。その仕草を見て、私は盛大に呆れてしまった。本当にこの人は何を考えているのだろう。頭の中はずっと幼いままなんだろうか。

そして昔の頃を思い出して、……不覚にも幼稚園の頃の武志を思い出し、再びときめいてしまった。やっぱり私は武志が大好きなんだ。 目の前で作業員たちがせわしなく動き、巨大なコンクリートの塊が、徐々に地下に埋められていく。

1 2 3 4 5