第4章
核の雨が降り注いだあの日から、数日が経った。シェルターの中の生活は、まるで時間が止まってしまったかのようだった。毎日同じ時間に起きて、味は違うが同じものを食べて、同じ部屋で過ごす。でも、私はこのシェルターでの生活を、全然嫌だと思わなかった。だって、ここにはエマおばさんと、ヤンとハンスがいるから。そして、丸尾おじさんが、私たちを守ってくれたから。
でも最近、エマおばさんの表情は、少しずつ暗くなっていた。
「パパは、本当に大丈夫なの?何か、連絡が取れないかしら……。」
エマおばさんは、毎日、シェルターの管制室にある通信機の前で、そう呟いていた。でも、どのチャンネルも、ザーッというノイズが聞こえるだけで、何も繋がらなかった。ヤンとハンスも、そんなエマおばさんを見て、不安そうな顔をしていた。
そんなある日、シェルターの天井からドリル型の機械が地上に発進された。丸尾おじさんが、外の世界の様子を探るために、事前に仕込んでおいたものらしい。モニターに映し出された映像に、私たちは息をのんだ。
画面の中の世界は、私たちが知っている世界とは、全く違うものだった。木々はすべて枯れ、草木一本生えていない。荒れ果てた荒野が、どこまでも広がっていた。まるで、地獄の絵巻物を見ているようだった。
「嘘……。」
エマおばさんは、その光景を見て、泣き崩れた。私も、その光景を見て、思わず震えた。私の家は?お父さんとお母さんはどうなったの?あの、暖かくて優しい、森と小川はもう、どこにもないの?
私は、怖くて、怖くて、声も出せずにいた。その時、ヤンが、私の手を握ってくれた。
「大丈夫だよ、ミオちゃん。パパが、僕たちを守ってくれたから。」
ヤンは、震える声でそう言った。ハンスも、何も言わずに、私の手を握りしめてくれた。私は、二人の温かい手に、少しだけ安心した。
それから、また数ヶ月が経った。シェルターの中は変わらず、快適だった。でも、エマおばさんの不安は、日増しに大きくなっていた。
「このままこの中にいたら、私たちはどうなってしまうの?」
エマおばさんはそう言って、時々涙を流した。私は、エマおばさんを抱きしめることしかできなかった。
「大丈夫だよ、エマおばさん。丸尾おじさんは、きっと生きてるよ。私たちを絶対に、見つけてくれるよ。」
私は、そう言って、エマおばさんを励ました。でも、私の心の中も、不安でいっぱいだった。
そんなある日、エマおばさんが、決心したように、私たちに言った。
「みんな、外に出ましょう。このままここにいても、何も始まらないわ。」
私たちは、放射線防護服に身を包み、何重にもロックしてあったシェルターの扉を開けた。外の風景は静寂に包まれていた。土は黒く変色し、空には鳥も飛んでおらず、流れる川の音だけが聞こえてくる。
「ミオちゃん、こっちよ!」
エマおばさんは、私の手を引き、シェルターから出た。あたり一面は、木々が枯れ、荒廃した景色が広がっていた。でも私は、その景色を見て怖くはなかった。だって私たちはモニターからこの景色をいつも見ていたし、エマおばさんとヤンとハンスが一緒にいるから。
私たちは、とりあえず周りを散策した。ヤンとハンスは、丸尾おじさんが言っていた言葉を、何度も口にしていた。
「お父さんは、生きている。お父さんは絶対に負けないんだ。」
私は、二人の言葉を聞いて、少しだけ勇気が出た。その時ハンスが、枯れた木にぶら下げられている錆びた鉄の看板を見つけた。
「ママ!これ、見て!」
ハンスが指差す先には、錆びた鉄の看板があった。そこには、矢印と「一人用シェルター販売」と書かれていた。
「これ、パパの会社の看板だわ!」
エマおばさんは、そう叫んで看板を抱きしめた。その目には、涙があふれていた。
「前にはこんな看板は無かった。お父さんが新しくここに置いたんだ。そして僕たちを、ここに導いてくれたんだ。」
ヤンは、そう言って、矢印の示す方向へ歩き出した。私たちは、ヤンの後を追った。矢印の示す方向へ歩いていくと、山の入り口に、見慣れた扉があった。それは、私たちが知る「絶対安全君2035年バージョン」と同じデザインの扉だった。
扉の前には、小さな折り鶴が数個、置かれていた。それは、私が丸尾おじさんに渡した、折り鶴だった。私は、その折り鶴を見て、涙が止まらなかった。丸尾おじさんは、私たちがここに来ることを、知っていたんだ。
扉を開けると、そこには、丸尾おじさんの声が録音されたテープが置いてあった。
『ミオちゃん、ヤン、ハンス、そして、エマ。君たちが、このテープを聞いているということは、僕の計画が成功した、ということだね。』
テープからは、丸尾おじさんの優しい声が聞こえてきた。その声は、まるで、私たちがこの世界で、一人ではないことを教えてくれているようだった。
『この扉の先には、君たちが想像もできない、新しい世界が広がっている。さあ、ここから、僕たちの旅を始めよう。急がず、ゆっくりとおいで。』
テープの最後には、そう語られていた。
私たちは、顔を見合わせた。そして、ヤンが、小さな声で言った。
「お父さんは、本当に、生きてるんだ。」 私は、ヤンの言葉に、静かに頷いた。私たちは、丸尾おじさんが残してくれた希望を信じ、扉の奥へと、一歩、足を踏み出した。