第5章

私たちは、丸尾おじさんが残してくれた希望を信じ、扉の奥へと一歩足を踏み出した。

扉を開けると、そこには、何重にもなった分厚い扉が待ち構えていた。私たちは、その重い扉を、一つずつ開けていった。扉を開けるたびに、冷たい空気が肌を刺した。まるで、私たちが知っている世界から、どんどん遠ざかっていくような、そんな感覚がした。

細い通路を、しばらく歩いた。私たちの前を歩くエマおばさんは、不安と期待で、足取りがおぼつかないようだった。ヤンとハンスも、何も言わずに、ただ、僕の小さな手を握りしめて歩いていた。

通路の先には、天井から水蒸気を含んだ空気シャワーが降り注ぐ場所があった。エマおばさんが、私たちに言った。

「放射線洗浄よ。ここで、体を綺麗にしないと、先に進めないわ。」

私たちは、服を脱ぎ、空気シャワーを浴びた。冷たい空気が、体についた見えない汚れを洗い流してくれるようだった。でも、私は、怖くなかった。だって、私たちはもう、一人じゃないから。空気シャワーを浴びて、再び奥の扉を進んだ私たちは、小部屋についた。

そこで私達は防護服を脱ぎ、さらに奥にある扉を開けた。そこには、信じられない光景が広がっていた。

そこには以前よりさらに太った丸尾おじさんが、どてらを着て、ニコニコ笑顔で椅子に座っていた。彼は、以前にもまして穏やかで満ち足りた表情をしていた。その表情は、私たちが知っている丸尾おじさんと、同じだった。

エマおばさんは丸尾おじさんに駆け寄り、涙を流して抱きついた。エマおばさんの頭を撫でながら、丸尾おじさんは私達に優しく話しかけた。

「ミオちゃん、ヤン、ハンス、そして愛しのエマ。よく来たね。」

丸尾おじさんは、エマおばさんを自分の体からゆっくりと離すと、私たち子供たちを一人ずつ抱きしめた。そして、私たち全員の無事を確認すると、笑顔でこう告げた。

「この奥に、もっと大きな施設があるんだ。さあ、ここから移動しよう。みんな、きっと驚くよ。」

丸尾おじさんは、1人用シェルターの奥にあるエレベーターを指差した。私たちは、丸尾おじさんに言われるがまま、エレベーターに乗り込んだ。エレベーターは、ゆっくりと地下へと降りていった。

「パパ、僕たち、これからどこに行くの?」

ヤンが、丸尾おじさんに尋ねた。丸尾おじさんは、ヤンの頭を優しく撫で、微笑んだ。

「新しい世界だよ。僕たちが、これから創っていく、新しい世界だ。」

エレベーターが止まり、扉が開いた。天井が高く、明るく広い空間が広がり、そこには、さらに信じられない光景が広がっていた。巨大な人口施設が目の前に広がっていたのだ。

「ミオ!」

聞き覚えのある声が聞こえた。そこには、私の家族、お父さんとお母さん、そして弟がいた。それを見て、私は、思わず走り出した。

「ミオ!会いたかった。体に怪我はない?無事だった?」

お母さんが、私をきつく抱きしめた。私は、お母さんの温かさを感じて、涙が止まらなかった。お父さんも、弟も、みんな、生きていた。私は、嬉しくて、嬉しくて、声も出なかった。

そこには、私の家族だけでなく、丸尾おじさんの会社の家族たち、合わせて18人が暮らしていた。

「ここの地域には核が直接降ることは無かったから時間の猶予は少しあったんだ。でも、君たちの扉を閉めてから時間が7分しかなくて、助けられたのはここにいる人たちだけなんだ。ごめんね。」

丸尾おじさんは、そう言って、ぺこりと頭を下げた。私は、丸尾おじさんを心底すごい人だと思った。

丸尾おじさんは、これまでの人生で得た知識のすべてを注ぎ込み、この巨大な地下施設を密かに建設していた。この施設は、核シェルターのナノリサイクルシステムを応用し、汚染された土地や空気を再生するための巨大な「地球再生計画」の中枢だった。

丸尾おじさんは、皆の前で手を広げて、声高らかに宣言した。

「今から、この地球を再生させる。」

その言葉に、皆は、驚きと希望の表情を浮かべた。

丸尾おじさんは、エマおばさんと、ヤンとハンスに言った。

「これからは、みんなで一緒に、新しい世界を創っていくんだ。大丈夫だ。僕たち人類は、何度でもやり直せる。」

その言葉は、まるで、私たちに勇気を与えてくれるようだった。私は、ヤンとハンスと手を繋ぎ、丸尾おじさんが創り出す希望に満ちた未来を信じ、二人に微笑んだ。私たちは、丸尾おじさんを先頭にして、仲良く巨大施設の入り口に立っていた。

丸尾おじさんは、エマおばさんに言った。

「久々に、エマのズッペが食べたいな。作ってくれるかい?」

「もちろんよ、私の愛しい丸ハムちゃん。」

エマおばさんは、丸尾おじさんの頬にキスをした。その光景を見て、私は二人がとても羨ましく思い、丸尾おじさんの事をもっともっと好きになった。

そして遠く離れた場所では、武志が家族と共に生きる小さな世界を創り上げていた。丸尾と武志が6年後に再会することを、丸尾はこのとき知る由もなかった。

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